『汚い手で触らないで!』
ユースティアは差し出された派手なスーツを着た浅黒い男の手を払い除ける。
「失礼。うちの家内は潔癖症でね。街の害虫に触れたくないそうだ。」
警察服を着た実直そうな男が、手を払われた男に対して謝意の欠片も無い謝罪の言葉を投げる。
警察服の男はユースティアの夫であり市の警察署長であるセドリック・アーチャー。
そして派手なスーツの男はこの街のマフィアを牛耳るカミロファミリーのボス、カミロ・ヴィダルだった。
「フッ」
カミロは払われた手を振りながら余裕の態度で立ち去る。
『あなた‥私まだ、さっきの裁判の処理があるから』
語気荒くカミロの手を振り払った女性、ネイビーのスーツに美しい金髪とモデルさながらの容姿。セドリックの妻であり検察官であるユースティア・アーチャーだった。
ここアストライア・シティはギリシャ神話の正義の女神「アストライア」から名を取った都市でありながら、長らく多くのマフィア組織の蔓延る街であり、10年前、暴力と抗争の末にマフィアを統一したのが大ボスと呼ばれるカミロであった。
だが彼にも目の上のたんこぶと言える存在がいた。数年前、大都市から赴任してきた警察署長のセドリックとその妻ユースティアであった。噂によれば中央政府が腐敗にまみれたこの街を正すため、大都市での秩序回復に手腕を発揮したセドリックを説得して、この街へ派遣したと言われていた。
セドリックは正義感が強くかつ有能であった。警察内の腐敗を正し、取り締まりを強化し、マフィアに支配されたこの街を法の秩序の元へ引き戻しつつあった。
そして、その妻のユースティアはカミロに恐れず立ち向かえる数少ない検察官であり、カミロ達に苦しめられている街の人々からは「正義の女神」の二つ名で呼ばれていた。
今日も裁判所でカミロ・ファミリーの不正な行いを糾弾したところだった。犯人であるファミリーの構成員を刑務所へ送ることはできたが、その犯行がカミロの指示であることまでは証明することはできなかった。
そして裁判所の入り口で出くわしたカミロとアーチャー夫婦。カミロが挑発の言葉と共に差し出した握手をユースティアは払い除けたのだった。
「ああ、僕も署に戻るよ。じゃあ家で。今日は早く帰れそうだから、僕が子供達に夕食を作るよ。」
『ええ、よろしくね。あなた‥』
夫と別れてから5分後。
『お待ちしてました、ご主人様‥♡』
裁判所のトイレでカミロに尻を差し出すユースティアの姿があった。
正義を守る使命も、妻であることも、2人の子供の母親であることも。もはやそれらは
マフィアの牝奴隷に堕とされたユースティアにとって大した意味を持たなかった。
「行くぜ..奥さん」
『はい。今日もいっぱい可愛がって下さい..♡』
『あ”お”ぉぉぉぉンッ♡!』
「さっきはよくもやってくれたな!奥さん」
『ゆ、許してぇぇェッ♡!』
「許さん!」
ズボォッ!!
『ぐひぃぃぃぃぃンッ♡!!!』
「旦那と俺、どっちがイイ?」
『あ、あなた!あなたですッ♡!あの人なんて比べ物にならない!』
「フフフ..それじゃあ本題に入ろうか奥さん。旦那の動きはどうだ?」
『ご…5月3日にブールガ港の一斉麻薬捜査を行うって‥後‥アンドレ議員経由で働きかけて、グリア通り沿いの売春宿を営業停止にするって‥それと‥』
ユースティアが夫から聞き出した情報や、PCから盗んだ情報をカミロに伝える。これでカミロファミリーは警察に先んじて先手を打つことができるのだ
ズブッ!ぐぶぅッ!
「お前は誰のものだ?」
『私は、ユースティアはあなたのモノです!』
パンッ! パンッ!
「この街の支配者は誰だ!」
「カミロ・ヴィダル様ですぅぅぅッ♡!!」
検察とマフィアは繋がっていた。物理的に。そして夫の知らぬところで。