
エルフ王妃ルシアの息子アンリ王子がまだ幼ない頃、三匹の子猫の亡骸を抱え泣きながら帰ってきた。
その年は酷い干魃で子猫の亡骸は干からびかけていた。
親猫と逸れたのか自分で食べ物も水も得ることができず悲しい運命をたどったのだろう。
アンリはその亡骸を抱いたまま泣き疲れて寝てしまった。
翌朝アンリが目を覚ますと、ルシアに連れられて3人の子供がやって来た。
「これからあなたのお供になる猫妖精(ケットシー)の”でち”よ。」
エルフの王族は1人につき1体だけ、エルフ王国の中心にある世界樹の力を借り、植物や動物を精霊として生まれ変わらせ、自らの守護精霊として使役することができた。
王家に嫁いできたルシアは、まだ自らの守護精霊を持っていなかった。 そして我が子の悲しみを和らげるため、子猫達の亡骸を守護精霊として生まれ変わらせたのだった。
だが本来1体の守護精霊の力を三つに分けたため、その力は弱く、心と身体は子供そのものになってしまっていた。
しかしルシアは、幼い我が子のお供として、遊び友達として、でち達をアンリに付けたのだった。
『″でち”って口ぐせなのね…いいわ。あなた達の名前は ″でち″よ。アンリと仲良くしてあげてね…でち。』

「さて・・ルシアは行ったでちね・・」
「僕の名前はアンリ!でち!仲良くしようね!」
「ふふふ…今日からお前はでちの子分でち! でちのことはでち姉さんと呼ぶでち!」
「え、ええ…」
こうして王子アンリは成人するまで、でち達に子分としてひっぱり回されることになった。でち3匹とアンリはこの日から王宮、そしてエルフ王国中を股にかけてイタズラしまくり、王宮を半壊させたり、時にはエルフ狩りの奴隷商人に捕まりエルフ国外へ誘拐されるも、逆に元締めの組織を壊滅させ奴隷として捉えられていたエルフや人間達を開放するなど、そのエピーソードは「王子とでちの物語」として国を超え、世代を超え語られることになる。