母、ルシアが病院に担ぎ込まれたという知らせを受け、息子の彩咲誠(あやさきせい)は病院に駆けつけた。ベッドに横たわり意識を失ったままの母。そしてその横には真っ当な母には見えない下卑た雰囲気の男達がいた。
よう、坊っちゃん。ワイは羽山っていうもんや。ワイらがあんたの母ちゃんをここまで運んだんや。
小太りの中年男がそう話しかけてくる。身につけているモノ全てから成金じみたセンスが漂ってくる。
おい、坊っちゃん、わざわざここまで運んだ。タダってわけには行かねえんだよ。
もう一人の眼鏡の男が威圧するような口調で喋りながら、誠の胸ぐらを掴む。その目は爬虫類を思わせる。初対面であっても相手が格下だと見れば高圧的に出る、下衆な人種の特徴だった。
やめとき竹仲、礼はいただくさかい…全部な‥
羽山が含みのある声で嫌らしく笑う
あ、ありがとうございます…母は一体どうして倒れたんですか?
この男たちはまっとうな種類の人間ではないと感じながらも、母が倒れた原因を知るためには会話を続ける他なかった。
ああ?グダグダ抜かすんじゃねえよ。病院に運んだだけで十分だろうが?
竹仲が再び誠の胸ぐらを掴んだその時ベッドのルシアが目を覚ました
せ・・誠ちゃん・・・? ヒッ…ひぃ!
息子と一緒に羽山と竹仲がいるのを見て、思わず悲鳴を上げる。
どうしたの?母さん?
誠が駆け寄り、ルシアと話そうとするが、体が震えまともに喋ることがことができない。
気分がまだ良くないようですな。それでは奥さん。ゆっくり休んでください。
羽山がそう言いながら病室を出ていこうとする。台詞とは裏腹に明らかに嘲りの響きがあった。
ま、まって!お願い…返して…返してください…
ルシアが絞り出すような声で羽山に声をかける。
その瞬間、空気が変わった。羽山と竹仲がルシアを睨みつける。
なんのことだい?奥さん。よくわからないが息子さんを巻き込んで話すことなのかい?
恐怖で引きつるルシア。もう一言もしゃべることができない。羽山の台詞の意味は明らかだった息子を人質に取ったのだった。
お、おいッ!
誠が羽山を止めようと駆け寄った瞬間、竹仲が誠を殴り付ける。
きゃあッ!やめてえ!
ルシアが悲鳴を上げる。床に倒れた誠に、竹仲が何度も蹴りを入れる。
ガキは、指を加えて見てな!
羽山達が部屋を出ていった後、泣き崩れるルシア。誠が理由を聞いても「ごめんなさい」を繰り返すだけだった。
母があの男達に弱みを握られているのは確かだった。そして病院に運び込まれたのは奴らが原因だろう。あの男達は僕を舐めていた。高校生の子供に何もできやしないだろうと・・
指を咥えさせてやるよ・・お前達に。
母に聞こえないよう。静かにつぶやいた。