「追放されし運命の神よ。我が願いに応えたまえ…」
暗い部屋に満ちる怨嗟の声、その主は一人の老人だった。
かってこの世界を造った神々の一人「レーワ」。人間の運命に干渉し幸福へ導いて来た神は悠久の時の中で、いつしか人間が苦しむ様を愉悦とし、人を破滅へ導く存在へと変わっていった。
レーワが歴史に現れる度に、多くの悲劇が引き起こされ、そして人間はこれに抗い続けてきた。しかし神であるレーワをに滅ぼすことはできず、他の神々の力を借りて、仮初の封印に数百年間閉じ込めるのが精一杯であった。そしてレーワは自らに戦いを挑む人間の姿すらも楽しみ、いつも最後は「今回のゲームは楽しかった」とばかりに余裕の表情で封じられていくのだ。数百年など悠久の時を生きる神にとっては一時の休憩に過ぎないのだ。だがレーワは二百年前にこの世界から追放され、そしてこの世界への干渉力を永久に失った。
二百年前
「ねえ、でち姉、やめようよ。これ悪い神様の封印なんだよ。」
ダンジョンの最深部。レーワの封印を壊そうとするでち達をアンリが制止する
「神様が怖くて、でちがやれるかでち!」
ワケの分からない事を言いながら、でち達は封印をぶち壊した…
そして数カ月後。
『でち!行くわよ!』
ルシアが魔法で次元の穴を開いた。
「アンリのかたきでち!」
床にはレーワの攻撃から、でちをかばったアンリが虫の息で倒れている。
弟分を傷つけられた、でちの怒りが爆発する。
「「「とりぷるきーっく!!!」」
でち達の同時キックがレーワを直撃し、次元の穴の向こうへと吹き飛ばす。
「貴様ら!絶対に!絶対に許さんぞ!」
「ばーか!ばーか!そもそも
そーいうこと言うヤツは
人を許した事なんてないんでちー!」
そして今。その邪悪な祈りに、追放された神が答える。
「ククク…かって私を封印したお前が、私を呼ぶとはな。エルフ王。」
その老人こそはルシアの夫、エルフ王であった。いや元国王であった。ルシアとデュカが駆け落ちした後、怒りに任せて人間族への殲滅戦争を起こそうとし、それを止めようとした王子アンリと議会によって、王位を退かされ、今はルシア達への復讐だけを考え生きる存在となっていた。
「レーワよ。お前もよく知るあの売女ルシアと、そして忌々しいでち共に呪いを。対価に我が魂を差し出そう。」
「いいだろう。ヤツらに対する復讐であれば手を貸そう。特にあのクソでち共!‥だがもう私はこの世界への干渉はできないぞ。ルシアが神々への根回しをしたせいで、追放と同時にこの世界への干渉権を奪われてしまったからな。」
「私に考えがある…」
ーー
復讐者達がルシアとでちにかけた呪い。
それはこの世界とは別に、レーワが創造に関わり、未だ干渉が可能な「地球」という世界に、ルシアとでちを転生させ、そこで苦渋の人生を歩ませるというものだった。
「千回生まれ変わり、千回愛した者と結ばれよ。そして千回愛する者から奪われよ。」
ルシアは千回地球に生まれ変わり、そして愛した人間デュカと再会し、結ばれ、そして必ず誰かに寝取られるのだ。
そして、でち達もまたルシアが寝取られ始めると同時に、ルシアの精霊として現界する。ルシアが寝取られる様を間近で眺め、何度も絶望するために。
だが復讐者達の誤算は、でち達はルシアが寝取られる様など見ても、せいぜい「気に食わない」という程度でしかなく、現界する度に好き勝手に生きるノーテンキな存在であったことだ。
ーー
「前世ではおろかなことをしてしまったでち」
「まったくでち、これからは仲良くするでち。仲直りのおやつを…」
「……いっこでちな……」
「「「ちねぇー!!!」」」